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因州和紙を中心に和紙をご紹介。

手漉き和紙の製造

手漉き和紙の製造

(出典:手漉和紙大鑑 第一巻  毎日新聞社)

 わが国の紙漉技法は、紙漉を発明した中国の技法をそのまま模倣して踏襲してきたものではなく、われわれの先覚者諸氏が長年にわたりあらゆる苦心と努力を重ねて、発明と改良を加えてきたものである。 その主要な事項をあげると、

 1.中国から伝来した旧法の溜め漉き法から、新法の流し漉き法による抄造技術を開発したこと。

 2.原料として、わが国産の繊維である楮、雁皮、三椏を活用して、和紙に独特の特色を持たせたこと。

 3.紙漉(抄造)の際、原料に混合するネリを発見し、有効に使用したこと。

 4.紙漉用具を改良し、精緻な工夫を加えたこと。

これらの独創的な発明工夫によって、わが国の伝統的な文化財として誇り得るものとなった。

紙漉重宝記

以下の画像は、寛政十年(1798)に 国東治兵衛 撰 丹羽桃渓 画 によって発刊された「紙漉重宝記 全」から抜粋したものです。

楮を刈り取る図楮を刈り取る図
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 紙漉に使用する水の条件としては、次のような事項があげられる。

 1.水が不足すると優れた紙を漉くことができないので、常に十分な水量が確保されていなければならない。

 2.水質は、色、浮遊物、鉄分およびマンガンなどを含んでいない清水であること。

 3.ネリが十分な働きをするには軟水が望ましい。

原料の処理

煮熟

楮の蒸しと皮むき楮の蒸しと皮むき
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 各種の製紙原料は、いずれも純粋な繊維素ではなく、でんぷん質、蛋白、脂肪、タンニンなどのほかに、リグニン、ペクチン、糖質、鉱物質その他性質の明らかでない諸種の不純物を含んでいる。
 また故紙やぼろなどを用いればさらに多くの混合物や付着物があるわけで、これらをそのままにして紙を漉けば、日時の経過と共に変色し、品質が低下する。 従って優れた紙を漉こうとすれば、これらの不純物を除いて、なるべく純粋な繊維だけで漉くことが望ましい。

 不純物を除く手段として、一般にアルカリ性の溶液を加えて、高温で加熱し、不純物をできるだけ水に溶ける物質に変え、水に流し去って、比較的純粋な繊維素だけを抽出する作業が、この煮熟である。

 植物の靱皮繊維は相当に安定した物質で、酸類にはやや弱いけれども、アルカリ類に対しては抵抗性があるので、作用の強いアルカリ薬液を使用しても繊維はあまり損傷することがなく、含まれている不純物のみが水に溶け出すから、この煮熟法による繊維の抽出が簡便で能率的である。 しかし純粋な繊維を得ようと薬品を多く使用したり、煮熟時間を長くすれば、繊維は損傷するし光沢を失い、強度や紙の収穫率(歩留まり)を減ずるようになる。
 どの程度まで煮熟すれば適当かは、長い経験による熟練が求められる。

 煮熟用の薬品としては木灰、石灰、ソーダ灰、苛性ソーダなどが使われているが、古くは木灰が使われ、年代の移るに従って石灰となり、さらにソーダ灰、苛性ソーダと変遷してきた。

灰汁(あく)抜き

 煮熟の目的は、原料の植物中の非繊維物を鹸化して水に溶ける物質にすることであるから、煮熟を終えた原料を釜から取り出し、籠に入れて水中に放置するか、底の浅いコンクリート製のタンクに清水を満たして、原料を均等に広げてひたし、絶えず水がかわるように流水量を加減して灰汁抜きを行う。

 従来は河川の浅瀬の静かな清流を選び、原料を漬けて灰汁分を流し去る。これを川晒(かわざら)しともいい、川晒しを行う場所を晒場または草出場とよんでいた。 また後述するように川晒しは天然の漂白もかねている。

川晒しと黒皮削り川晒しと黒皮削り
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漂白

 煮熟と灰汁抜きを終えた紙料を未晒紙料というが、すでに不純物の大部分が除去されているが、なお幾分かは残っている。
未晒紙料が淡褐色なのは、その不純物が残っている証拠である。
 手漉き和紙ではこの未晒紙料を用いる場合が少なくないが、日が経つにしたがい、その色相が濃厚になるのが普通である。これは紙料中の有色非繊維物が空気に触れて自然に酸化するためである。

 そこで純白な紙を作るには、これらの有色非繊維物を完全に除去することが必要になってくる。

 前に記した灰汁抜きの川晒しは、原料が清水中にある間に、水中の酸素が日光の紫外線の作用によって生成する過酸化水素およびオゾンの働きで自然に漂白されるものである。

 また同様の漂白法としては北陸地方など雪の降る地方で行われている、晴天の日の雪上に原料を薄く雪をかぶせて広げ、時折ひっくりかえしながら一週間ほども放置しておく雪晒しの方法もある。

 これら天然漂白法は繊維を傷めず、光沢を保ち、強靱性が発揮されるので、理想的な漂白法であるが、漂白に時間を要するし、天候や水の清濁の影響をただちに受け、広い地面を要するなどの不利があって、実施されることが少なくなった。

 薬品による漂白には主に晒粉(カルキ)が使用されるが、これは明治末期以後から行われてきた方法である。
 晒粉を水に溶解し(ボーメ比重計 7程度)、この中に常に原料が液面の下にあるように注意しながら十時間あまりおく。
漂白した原料は煮熟後と同じように清水中で十分に水洗いする。

 このような方法では漂白にかなり時間がかかるので、漂白液をあたためたり、漂白液に酸を加えたりするなどの手段で、漂白時間を短縮し、漂白効力を高めたりする方法もとられている。

 しかし、漂白剤を多量に使用し、漂白時間を長くすることは、非繊維物の脱色が完全に行われ、純白な紙料を得ることができるが、同時に繊維素が侵され、強度、光沢、歩留まりなどの低下を伴うから注意が必要である。

 なお、煮熟と漂白とは、きわめて密接な関係があって、煮熟の不完全なものは非繊維質も多量に含まれているから、どれほど漂白剤を多くし、長く煮てもとうてい純白にするのは不可能である。
 つまり漂白を完全に行うには、やはり煮熟を完全に行い、非繊維物をなるべく完全に除いてしまうことが必要である。

塵取り

 叩解に先だって、灰汁抜き、あるいは漂白の工程を終えた原料から手作業で塵を取る。

 塵とは降雹、霜害、病害虫などによる繊維の傷痕や芽跡や付着した塵埃などであるが、楮は繊維の性質上、機械的な方法による塵取りがむずかしいので、一本一本確かめながら取り除く。
 なお三椏や雁皮は、手作業による塵取り作業を省き、スクリーンと称する除塵機で行うことが普及しているが、場合によっては繊維を損ねることもある。

叩解

 叩解は原料の調製の作業で、煮熟とともに最も重要な工程の一つである。
 紙は繊維のからみ合いと膠着によってできるが、均質でしかも強靱な紙を作るには、このからみ合いと膠着が十分に行われなければならない。

 植物体の繊維は、多数集まって繊維束とよばれる集合体を形作っているが、この繊維束は煮熟や漂白などの処理を行っても、なお集団を保っているから、漉く前に個々の繊維に分離し、さらに分離した繊維を適当な長さに切断したり、適当な幅に砕裂したりして、各繊維が十分にからみ合い、膠着するように準備するのが叩解の作業工程である。

 繊維束から繊維を分離させる段階の作業が「離解」であって、この状態で紙を造ると、紙面が荒い。
 繊維を切断したり砕裂したりする段階が「叩解」である。

 楮は繊維が長く、繊維のところどころに節瘤があるのでビーター*1のような激しい機械的回流や攪拌を長く行うと、双眼*2を生じるおそれがある。
 従って楮繊維でビーターを用いる場合は、なるべく紙料をうすめてビーターにしこみ、短時間内に離解が完了するように行う。

 三椏の叩解は、元来が粘状になりやすい繊維であるため、極度の叩解を行うと、非常に漉きにくい状態となってしまう。

 雁皮の叩解も三椏の場合と違いはないが、雁皮を原料とする紙類は、多くが薄い紙であるから、繊維を多少粘状にする。 そのため普通、三椏よりやや長く叩解を行う。

紙漉き

 漉槽(すきぶね)の中の紙料を、漉簀(すきす)と桁(けた)を操作して紙を漉く、いわば中心的な作業工程を、全体の紙漉作業から特にせまく限って、抄造とよぶ場合がある。

紙漉き用具

道具の図道具の図
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  • 漉槽
     漉舟(すきぶね)ともいい、その大きさは、抄造する紙の種類や寸法によって違ってくる。
     半紙一枚判漉き〜畳八畳敷 など。
     大半の漉槽の大きさは、長さは180cm前後、幅100cm前後、深さ40cm前後のものになる。
     なお、舟水(ふなみず)の動揺および簀桁の汲み上げを容易にするために、漉槽の上部は底部より少し広く作られている。
     材質はマツ、ヒノキ、スギ、ツガなどであるが、近年はコンクリート製のものが多くなった。
     漉槽の左右には「馬鍬かけ(ませかけ)」という二本の軸受けが立っていて、馬鍬を使うときの主柱としている。槽の左右の内側には、簀桁をのせる「桁持たせ」あるいは「桁橋(けたはし)」とよばれる二本の棒が手前から向かい側にかけて置かれている。
  • 馬鍬
     別名を、まが、まんが、まぐわ、さぶり、などといっている。
     漉槽の中に叩解した紙料と清水と、それにネリを加えて攪拌し、紙料の濃度を均一にしてから紙漉き(抄造)を行うのであるが、この攪拌を行う用具が馬鍬である。
     刀状に削った竹べらを櫛状に並べて木枠に取り付けた構造で、漉槽の両側に立てた馬鍬かけにかけて、手で前後に激しく動かして水と紙料を攪拌して繊維を分散させる。
     漉槽に紙料を入れるたびごとに数百回、激しく動かすのは厳しい労働であるため、電動のスクリュー式攪拌機も普及している。
     なお馬鍬で攪拌が終わったら、ネリを加え、さらに竹棒で攪拌して、漉槽の紙料濃度を一定にして、紙漉作業に移る。
  • 漉簀
     紙料を漉槽の中からすくい上げるのが漉簀である。
    材料は竹を細く丸く削った片子(ひご)を絹糸で編んで簀(竹簀)としたものであるが、かつては萱(かや)で作った簀(萱簀)を使用した。
     漉簀で紙料を汲み上げると、繊維だけが簀にさえぎられて薄い湿紙層をつくり水は簀の目を通って漏れ落ちる。
     簀の目の大きなものは水漏れが速く、したがって非繊維物その他の微細物をとどめないから、いわゆる冴えた紙を得るが、柔軟になりやすい。
     また、片子(ひご)が太ければ、簀の面があらく、紙に大きな片子(ひご)跡をつけ、編糸も太いものを使うことで、紙面が粗雑で編糸の跡が目立つ。
     一般に厚紙向けには片子(ひご)を太くし、簀の目の大きなものを、薄紙向けには細片子(ひご)で簀の目の細かいものを用いる。
  • 漉桁
     漉簀を支えて紙を漉き上げる用具が漉桁である。桁はヒノキで作った木枠で、上桁と下桁に分かれ、蝶番でつなぎ、上桁には二個の「にぎり(手取り)」が付けてある。
     漉き手はこのにぎりを持って簀桁を操作する。
     漉桁は、毎日水中に漬けて酷使されるので、特に念入りに良材を選択して作製される。桁にたゆみやひずみがあると、平らな紙が漉けない。 水を吸収しないように漆塗りにした高級品もある。
     手に漉桁を持って紙料を汲み上げると、簀桁の目方と、水および紙料の目方が合わさって相当の重さになり、漉き手に大きな負担となるので、これを助けるために桁を天井から「弓」あるいは「釣り」とよぶ竹の棒で釣っている。 弓の先から紐糸が垂れており、これを上桁のにぎり部か、下桁の先端に結びつけ、竹棒の弾性を利用して桁の重さの大部分を持たせている。
  • 漉紗
     薄くて、簀の目や糸目などのない平滑な紙を漉くときに、漉簀の上に取り付けるのが漉紗である。
     典具帖紙・雁皮紙・図引紙・箔打ち紙などを漉くとき、この漉紗を用いた紙漉を行う。
     漉く紙の種類によって絹紗の編み目が異なっており、耐久性を与えるために柿渋を塗っている。

これら高級な和紙の製法に不可欠な用具の製作技術者は、日の当たらない状態におかれたまま、不安定な需要、材料の入手難、低い利潤、後継者の絶無のために急速に姿を消している。

  • その他の紙漉用具
     ●紙床(しと)あて板(湿紙堆積板、しきづめ)
    =漉き上げた湿れ紙を次々と積み重ねるために用いる板で、湿れ紙から漏出する水の流れをよくするために、周囲に溝を掘ったり、多数の穴をあけたり工夫が施されている。
     ●紙床紙台(しとがみだい)・敷詰台(すいづめだい)
    =紙床(しと)あて板を置く台
     ●紙料槽
    =桶その他の容器 

図でみる紙漉用具

「製紙巡回教師吉井源太講話筆記」表紙

 
ここで紹介する紙漉用具図は、明治20年四国の吉井源太氏*3より指導を受けて、当時の鳥取県農商課が編纂した「製紙巡回教師吉井源太講話筆記」に付せられたものです。

紙漉用具図紙漉用具図1
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紙漉用具図紙漉用具図2
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紙漉用具図紙漉用具図3
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ネリ

 手漉き和紙が、洋紙の原料と異なり、十分に叩解しない長繊維で、厚い紙から薄い紙まで、きわめて変化に富んだ紙を漉きわけられるのは、植物粘液のネリの使用を発見したところにある。

 ネリの働き、効果については次のような事項がある。

  1. 繊維の配列が優美になる。
     ネリを加えることにより、繊維は分散して凝集のおそれがなく、紙料液が簀の上に残っている間に簀桁を動揺させて、繊維の配列を均整することができる。
  2. 紙の強度が増す。
     繊維の配列が均整され、同時に繊維が十分に絡み合って、紙の強度が増す。
  3. 薄い紙を抄造するのに便利である。
     ネリの使用で水漏れがきわめて遅くなり、特に流し漉き法の特徴である残液の捨て水が可能となるから、ネリを使用しない溜漉き法とくらべて、薄紙の抄造が効果的に行われる。
  4. 紙の硬度が増す。
     ネリの量が多いと、簀上の水切れがゆるやかになるので、紙層の構造が緊密となり、さらに簀桁を動揺させる際に紙面が受ける水の圧力も強くなるので紙の硬度も大きくなるといえる。
  5. 湿れ紙の剥離が容易となる。
     漉きあげた湿れ紙を積み重ねた紙層を圧搾しても、上下の紙が密着しないで一枚一枚容易に剥離できる。これはネリを使用したからで、ネリを使用しない溜め漉き法では、各湿れ紙の間に毛布などを交互に挿んで剥離できるようにしている。
  6. 繊維の沈殿を防ぐ。
     繊維の比重はだいたい1.5程度であるから、漉槽の繊維はそのままでは羽毛状に集まって、たちまち漉槽の底に沈殿してしまう。 しかし、ここにネリ液を多量に入れると、羽毛状の集合がなく、いつとはなしに繊維が沈降して、その境界がはっきりしない。
  7. 紙の光沢を良くする。
     ネリの使用量が多いほど、紙の光沢が良くなる。

 ●その他のネリの独自の性質。

  1. 温度の上昇で粘度は著しく減少する。
  2. 放置しておくと自然に粘度が低下する。
  3. 単なる攪拌の打撃によっても、その粘度が減退あるいは消滅する。
  4. ネリの液には曳糸性が強く、液にガラス棒などを入れて引き揚げると棒の下に長い糸を引く。
  5. 水に少量のネリ液を加えただけで、濾紙を通過する水の流れがきわめて緩やかになる。

これらのネリ液はトロロアオイの根やノリウツギの樹皮から取り出される。

 トロロアオイ(学名 Hibiscus Manihot Medic)は漢名を黄蜀葵(おうしょくき)といい、アオイ科に属する一年生の顕花植物である。
 関東以西で栽培されているが、春先に種を蒔き、夏に芽を摘み、十月頃の霜の降る前に根を掘り起こす。

 この根を打ち砕き、水を加えて攪拌しておくと、粘液が分泌してくるので、木綿袋でこして紙漉に供する。
 トロロアオイの根は腐敗しやすいので、夏場の紙漉には困難があったが、大正末期から防腐剤の使用により、一カ年貯蔵できるようになり、さらに防腐剤を使用すると粘液が三倍ほど多く抽出される。

 ノリウツギ(学名 Hydrangea paniculata)はユキノシタ科に属する落葉低木で、わが国の南部から北海道にいたる各地の山野に自生している。
 ネリ液を抽出する方法に、このあま皮を含んだ樹皮を炭酸ソーダを加えた水で煮て、水を注ぐ方法か、あま皮の部分を薄く削って硼酸(ほうさん)と酢酸とを混ぜた水溶液に貯蔵しておき、使うときに取り出して水を注ぐ方法の二通りがある。

 ネリの成分は複雑な複合多糖類であるが、近年、合成化学粘剤も使用されている。

紙の漉き方

紙漉の図紙漉の図
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紙漉の様子

流し漉き

 紙の漉き方には、流し漉き法と溜め漉き法の二方法があるが、最も和紙の特長を発揮するのは流し漉き法である。
 もともと溜め漉きの名称は、捨て水の操作をあまりしない、薬袋紙、間似合紙、泉貨紙などの抄造法につけられたものであるが、明治初期にヨーロッパの手漉紙の製法が伝わり、局紙の抄造法が発達してから、このネリを使用しない方法を溜め漉きと名付け、一般の和紙のネリを使用する普通の方法を流し漉きと総称して区別するようになった。

 流し漉きでは一枚の紙が、初水(うぶみず)、調子(ちょうし)、捨て水(すてみず)の三つの動作が一体となって、はじめて仕上がる。

  1. 初水(化粧水、数子 かずしなどともいう)
     最初に紙料液を汲み上げる操作。
    簀をはめた桁のにぎりを両手で持ち、紙料液を浅く汲み、すばやく、しかも均一に簀面全体に広がるようにして、繊維の薄い膜をかたちづくる。
     紙の外観、見栄えの良否はこの初水の操作で決まるので、慎重に行う必要がある。
  2. 調子
     次に二回目の紙料液を汲み込む。 初水よりもやや深くすくい上げ、桁を前後に振動させると(紙質によっては左右にも振動させる)、繊維同士がからみ合い、紙の厚さをかたちづくる。
     この汲み込みは、求める紙の厚さによって数回くり返されるが、これを「調子ずき」といっている。
     一枚の紙層を全体に均一にするには、できる限り強い揺りを避けることであるが、あまりにゆるやかにすると締まりのない紙になる。
  3. 捨て水(払い水ともいう)
     汲み上げた紙料が、簀の上で適当な厚さとなると、簀桁の手元をさげ、水面に対し30度くらい傾けて、沈降しないで残っている簀面上の紙料液を半分ほど手元に流しおとす。
    残った紙料液は、桁を反対に前方に傾けて、押すようにして向こう側の桁の上から流し出す。
     この捨て水の操作が流し漉きの大きな特徴で、これによって簀上の液面に浮いている塵や繊維結束などの不純物が除かれる。
     捨て水が不完全であると、紙料液が簀上に残って向こう側が厚くなり、慣れない者が大きな動作で捨て水を行うと、せっかくかたちづくられた紙層をこわすことになる。

 漉き上げられた湿れ紙は、水分をできるだけ除いた後(水切り)、漉桁の上桁をあげ、簀を持ち上げて紙床(しと)板の上に一枚ずつ積み重ねて、紙床を作る。
 湿れ紙をまっすぐに揃えて、気泡の生じないように整然と重ねていくことが大切である。

溜め漉き

 証券や賞状などに用いられる局紙は溜め漉きで漉かれている。
溜め漉きは、簀に汲み上げた紙料液全部を簀の上に留めて、紙層とするのが特徴である。

 局紙は元来、三椏を原料としてきたが、現在は三椏の他化学パルプなどの補助原料も用いている。

 粗と密の二枚の金網を張った簀桁の上に紙料をすくい上げ、桁を水平にして、前後左右に揺り動かして繊維をからみ合わせる。
初水(うぶみず)、調子(ちょうし)、捨て水(すてみず)の作業はなく、紙層の厚薄はおもに紙料液の濃度と桁の汲み込みの深浅とによって決めている。

 漉き網を通して漏れ去る水がなくなると紙床に移すが、湿れ紙の間に一枚ごとに毛布を重ねて紙層の密着するのを防ぐ。
これはネリを用いないため、湿れ紙と湿れ紙を直接重ねると、互いに密着し合って剥がれにくくなるからである。

 なお、漉き網に凹凸をつけて漉入れを行うが、漉入れの精巧の度合いは、流し漉きよりも溜め漉きのほうがはるかに鮮明である。

紙の乾燥

紙干しの図紙干しの図
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湿れ紙の圧搾

 乾燥の前工程として紙床を圧搾して脱水を行う。
その方法として、昔は石を積み重ねた石圧法だったが、近年は油圧式、水圧式、ジャッキ式が普及している。

 圧搾の弱い紙は柔軟になる。一般に圧搾不足のものよりは、むしろ少し強めに圧搾し、乾燥の際に外側から水をかけて適当に水分を与えた方が湿れ紙の剥離の具合がよい。

紙の乾燥

 圧搾作業をしてもなお60〜80%の水分を含んでいるので乾燥を行うが、天日と火力による二方法がある。

(1) 天日乾燥

天日乾燥

 板干(いたぼし)ともいわれているように、張板(はりいた)あるいは干板(ほしいた)に湿れ紙を張って野外で天日で乾燥する方法で、手漉き和紙を象徴するような風景である。

 張板の材質は緻密な木質で、しかも乾いた一枚板がよく、一般にヒノキ、カツラ、イチョウ、トチなどが用いられている。

 湿れ紙を張りつける刷毛には、ワラ、シュロ、馬のたてがみ、馬の尾毛などが用いられ、形は各地各様である。
特殊な紙ではツバキの葉でなでて光沢を与える場合がある。

 張板に接した面が紙の表になるが、本来、簀膚(簀に接した面)が紙の表面となるものであるから、乾燥の際はこの面が張板に接するようにする。

 天日乾燥の長所は

  1. 和紙独特の光沢と感触を持った紙が得られる。
  2. 日光に晒すので、多少漂白される。
  3. 乾燥後に重量が増加することが少ない。
  4. 燃料が不要なので経済的である。

 天日乾燥の短所は

  1. 一般に紙が柔らかくなりやすい。
  2. 雨天や梅雨時は乾燥できない。
  3. 天候によって紙の色沢がふぞろいになる。
  4. 小工業的で大量生産に適しない。

(2) 火力乾燥

紙干し

 金属板でできた乾燥面に湿れ紙を張り、金属板を湯または蒸気などで熱して乾燥する方法で、広く普及している。

 金属板の乾燥面が固定されたものと回転するものがあり、固定したものには、断面が三角形や長方形のものと、横に平に置くものとがある。
回転するものは断面が三角形の角筒である。

 火力乾燥の長所は

  1. 紙面が平滑になる。
  2. 紙質が締まり、腰の強い紙が得られる。
  3. 統一された均整な紙が得られる。
  4. 季節、気候、昼夜の別なく操業できる。
  5. 大量生産ができる。(天日乾燥にくらべて)

 火力乾燥の短所は

  1. 和紙独特の味わいが多少失われる。
  2. 乾燥後、日時を経過するにしたがい重量を増す。
  3. 燃料を比較的多量に要する。

紙の仕上げ

 乾燥を終えた手漉き和紙は、選別、裁断、包装、荷造りなどの仕上げの過程を経て出荷されていく。

 主な和紙の枚数規格

 奉書 帖=48枚束=10帖     丸=10束
 半紙 帖=20枚束=10帖締=10束丸=6締
美濃紙帖=50枚束=10帖締=5束 丸=4締
西の内紙帖=50枚束=10帖締=5束 丸=2締

*1 機械式叩解機
*2 一本の長繊維の両端に短い繊維が巻き付いて結束し、並び合った二つの小さな固まりができる状態
*3 1826〜1908 製紙改良技術家。1826年、高知県吾川郡伊野村(現在のいの町)生まれ。家は代々御用紙漉きで、幼少より俳諧、南画を学ぶ裕福な少年時代を送りました。紙漉きには並々ならぬ情熱をもって打ち込み、まず初めに大型簀桁を発明。紙の生産量が一挙に二倍から三倍に上がったといわれるほどの成果をおさめています。維新後、製紙に関する藩の束縛統制の撤廃によって、水を得た魚のように活躍を始めます。明治初年には、楮、三椏、雁皮混合の大小半紙といった新製品を各種開発、さらに、経済性・防虫のため米糊に代え白土の使用を始めました。また、精巧な典具帖紙の抄造など、数々の改良や技術の発明を世に送り出すとともに、最期まで、全国の製紙技術の指導に全力を尽くしました。

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